2017年01月21日

『武州通信』第237号

 光り輝く新年といきたいのですが、なかなかそうは問屋が卸さないようで…。今年の世界はそして日本も、どうやら波乱含みの模様です。
 アメリカ新大統領 1月20日(日本時間21日)就任。トランプの「大富豪(大貧民)ゲーム」が始まる。

《データベース》の巻 

 “歴史の断層”という言葉がしばしば聞かれる。今年が本当にその断層の年になるのかどうかは分からない。
  「四角い小さな魔法のおもちゃ箱(スマートフォン=スマホ)」、これは確かに時代の最先端を走っている。何と言っても「パソコン機能付き携帯電話」なのだから…。最近では人工知能(AI)の活用も。

 先日も高校生の授業でスマホをいじっている生徒に「メールなんかやっていないで…」と軽く注意すると、「今、スマホで調べていたんだけど」と一蹴される。「ふーん、そうなんだ」。こんな授業風景は旧式の携帯電話の頃には考えられなかったことである。今では電話とメールだけの従来型の携帯電話はガラケー(ガラパゴス携帯電話)という惨めな愛称?で呼ばれている。確かにスマホはすごい。何でも即座に調べることができる。英語・数学・理科・社会、何でもござれ。もちろん電話もメールも、それに買い物だって。生徒同士の会話の中には、チャットだツイッターだラインだ、そしてフェイスブックだSNSだ、と僕には縁遠い理解困難な言葉が混じる。

 このようにスマホによって日常生活が便利になった。勉強の補助にするには役に立つ。いやそれだけじゃない。あらゆる分野の情報を一瞬のうちに何時でも何処でも手に入れることができる。つい最近までは考えられなかった何とも不思議な「魔法の箱」である。電車の中でもみんなスマホ片手に…。今では71%の人が保有しているらしい。しかしそこには、怪しい情報も、嘘や誹謗中傷も、すべてがフラットに混在しているように見える。

 ふと何十年も前に語られ、今ではあまり耳にしなくなった言葉が甦る。それは、シミュレーション(“オリジナル=現実”の模倣)とシミュラークル(オリジナルなき模倣)。当時はどういう状況を指しているのかまったく分からなかった。もっとも今でもよく分からないのだが、何となく現在の過剰な情報社会をうまく言い当てているような気がするのである。
 
 シミュレーションがオリジナルの模倣だとすれば、シミュラークルはシミュレーションのシミュレーション(模倣の模倣、またその模倣、のまた模倣…)の氾濫とでも言っていいのかもしれない(知識や情報というものは、度合いこそ違っていても、もともとそんなものだったのかもしれないが)。シミュレーションのシミュレーション、つまりシミュラークルが果てしなく織り成しており、それでいて不思議にもどこか類似した部分を保持している。スマホ主流の現在はそんな朧げな時代なのかもしれない。もちろん、それだけに怪しい情報がもっともらしい顔をして自己主張することもできるのだが…。我々はそうしたフラットな情報の海から、自分にとって心地よいものだけを取り出してブリコラージュ(間に合わせ細工)して判断基準にしているのだろう。すべてがデータベースに繰り込まれ、何が正しく、何が正しくないのか、が分からない。いや、正しいということすらどういうことか判然としなくなる。だって、また別の意見も堂々と正しさを主張しているのだから。寄せ集められた情報の断片だけがデータベースの海のなかに漂っている。どれを選択したらいい? あなたの思いのままにどうぞ。それが困ったことなのかどうかも僕には分からない。日常生活は日々何事もなかったかのように円滑に?進んでいるのだから。

 今ではまるで眼鏡のように身体の一部になっているスマホ。なかなか距離の取り方が難しそうである。民主主義の質は国民の民度(一人ひとりが空気に流されず熟慮を重ねることができるかどうか)によって決まると言う。熟慮、これが今ではなかなか難しいのだ。多くの情報が押しかけてきて、じっくり考えている余裕がない。確かに昔だって情報の処理や判断は難しかった。けれど、それでも判断基準は比較的探し易く、それゆえ考える余裕もあったような気がしてくるのである。今では世界で起こっているあらゆる出来事が膨大なデータベースに瞬時に取り込まれ、僕達は情報の渦のなかでふらふらと彷徨っているように見える。何が事実で何が本当か、これがますます分かりにくくなっている。 その結果、事実や本当は、“あなたの気分”のままに…。 ― これを“歴史の断層”と言うのだろうか?

(斉藤 悦雄)

【インフォーメーション】
2月18日『武州大学』 7:00pm〜
     テーマ :『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を考える。part 7    
    レポート:斉藤悦雄
3月4日『オアシス武州』6:00pm〜
    テーマ :『原発ゼロ社会への道』
    お話  :滝谷紘一さん
3月18日『武州大学』 7:00pm〜
    テーマ :「日本」をめぐる思想史。part 1    
    レポート:斎藤公太さん



posted by 武州ゼミナール at 11:59| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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