2015年06月16日

『武州通信』第223号

 人はみな「夢をもて」と言うけれど、人の見る夢は儚いもの。では「志を貫け」は? ここには苦難に立ち向かう強固な意志が感じられます。そう、意志のないところには何も生じない。そして、今号は、その “志” に関わる話です。

《さて、どっち?》の巻 

「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂」(吉田松陰)うーん、カッコイイ!!
 僕はこの和歌をずっと松陰の「辞世の句」だと思っていたのですが、どうやらアメリカへの密航を企て捕らえられたときに詠じたものだったようです。

 ところで、明治維新は革命なのか、薩長二藩によるクーデターなのか、という微妙な問題は残るのですが、ここではそのことは問わないことにします。何はともあれ、司馬遼太郎の影響もあってか、おそらく多くの人々にとって、明治維新が民主主義革命であること、そして吉田松陰や松下村塾に集う若き門下生達が深い志をもった革命家であることは、現在では暗黙の了解のようになっているのではないかと想像します。異国の脅威に晒され日本は動乱の渦に投げ込まれ、佐幕開国か尊皇攘夷か(まぁ、こんなに簡単には割り切れませんが)で揺れ動いたのが幕末です。なーんだ、そんなの誰でも知ってるよ、なんて言われそうですが、ともかく幕末に活躍した革命家がいて現代に続く新しい時代(近代日本)が誕生したわけです。そして志を貫こうとした彼らを僕達は時代を切り拓いた英雄として理想化します。きっと、その評価は基本的には間違っていないことでしょう。

 ところがです。数ヶ月前の武州大学でのこと。ある若い参加者が「吉田松陰も門下生もテロリストだったんですね」と。もしかしたら、彼は、現在放映中のNHKの大河ドラマ『花燃ゆ』のなかで描かれた 松陰による老中 “間部詮勝” の暗殺計画や、門下生による長州藩家老 “長井雅楽” の暗殺未遂などのシーンを見てそう思ったのかもしれません。ところで、「吉田松陰も彼の門下生もテロリスト?」という言葉を聞いてにわかに僕の心がザワついてきたのです。いや、違和感を覚えたわけではありません。むしろ違和感を感じなかったことがその原因です。つまり “そうだよなぁ” と肯定的な気分が生じてきたのです。これまでも間部詮勝や長井雅楽の暗殺計画の話は知っていたはずなのに、どうしてそれを理想の実現のためには止むを得ないものと割り切ることができたんだろう? ということが突如浮上してきたのです。

 ここにはきっと言葉の不思議が介在しているのでしょう。確かに赤軍派やオウム真理教の事件はあったものの、何十年もの間比較的平穏な時代が続いてきました。そんな中で、明治維新の革命家達は日本人にとってちょっとした憧れの的であったのかもしれません。ところが、2001年の米国での同時多発テロ以降、テロ(テロリズム、テロリスト)という言葉がリアリティをもって僕達の世界に重くのしかかってくるようになりました。それ以来、日々テロがマスコミで取り上げられ、映像として流れ、もはや耳慣れない言葉ではなくなっています。そして、『花燃ゆ』もそんな時代を意識して製作されたものなのかもしれません。ところで吉田松陰とその塾生達は、近代日本を創った理想的な革命家なのか? それとも単なるテロリスト集団なのか? いやいや、その二つは切り離せないのか? このように、これまであまり問題にされなかったことが話題になるのは、僕達の日常生活の中に “ある一つの言葉(テロリズム)” がリアリティをもって浮上してきたからに違いありません(テロリズムそれ自体はそれまでにもあったし、ことさら耳新しい言葉でもなかったのだから…)。

 ところで、僕がこのことに興味を感じたのは、他人(世の中)の評価の “移ろい易さ” を外から眺めた結果ではなく、僕自身の内面にもこの “移ろい易さ” があることを否定できなくなったからです。一つの言葉に命が吹き込まれると事象そのものの色合いまで変わってしまうという言葉の不思議。そして僕もその中に不安定に存在しているということ。どうやらこんなところに僕の心がザワつく原因があるようです。

「身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂」、こちらは 弟子に宛てた吉田松陰の本当の「辞世の句」です。ここにも至誠を貫くカッコ良さとともに、今ではテロを鼓舞する扇動者の匂いがしてくるような…。 

(斉藤 悦雄)

【インフォーメーション】
  6月20日『オアシス武州』 7:00pm 〜
  7月11日『武州大学』   7:00pm〜
   テーマ :ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』を読む part.2
   レポート:石本朋子さん
 ※関心のある方は是非参加してください。

posted by 武州ゼミナール at 00:00| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。